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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)8928号 判決

原告 川田利兵衛 外一名

被告 株式会社東京長塚鍛工所破産管財人 森謙

主文

被告は原告川田利兵衛に対し、別紙〈省略〉第一目録記載(一)及び(三)乃至(五)の建物並びに同第二目録記載(1) 乃至(3) の工作物を収去して、同第三目録記載(一)の土地のうち添付図面表示い、ぬ、る、を、わ、か、よ、た、は、に、ほ、へ、いの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた部分約七五七・九五平方メートルの土地を明渡し、かつ金一六〇、八〇〇円及びこれに対する昭和四一年一〇月五日から右土地明渡ずみまで一月金四、五八〇円の割合による金員を支払え。

被告は原告小泉由雄に対し、別紙第一目録記載(七)及び(八)の建物並びに同第二目録記載(4) の工作物を収去して、同第三目録記載(二)の土地のうち添付図面表示へ、れ、そ、つ、ね、と、への各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた部分約四八四・〇八平方メートル及び同表示り、ら、む、う、りの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた部分約六・四八平方メートル合計約四九〇・五六平方メートルの土地を明渡し、かつ金二二五、一二〇円及びこれに対する昭和四一年一〇月五日から右土地明渡ずみまで一月金二、九六〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一、原告等訴訟代理人は、主文第一乃至第三項同旨と右第一、二項につき仮執行の宣言を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告川田は、別紙第三目録記載(一)の土地(以下、本件(一)の土地という)を、原告小泉は同目録記職(二)の土地(以下、本件(二)の土地という)を、それぞれ所有している。

二、訴外株式会社東京長塚鍛工所(以下、訴外会社という)に対し、原告川田は本件(一)の土地を賃料一月金六、七〇〇円で、原告小泉は本件(二)の土地を賃料一月金九、三八〇円で、いずれも期間の定めなく賃料毎月末日持参払の約定で賃貸したところ訴外会社は本件(一)の土地上に別紙第一目録記載(一)乃至(五)の建物及び同第二目録(1) 乃至(3) の工作物を、また本件(二)の土地上に同第一目録記載(六)乃至(八)の建物及び同第二目録記載(4) の工作物を建築した。

三、ところが、訴外会社は昭和三九年一〇月一日東京地方裁判所において破産宣告を受け、同日被告が破産管財人に選任された。

四、そこで、原告らは被告に対し、破産法六二条五九条二項民法六二一条六一七条の各規定に基き、それぞれ昭和四〇年一一月二〇日付内容証明郵便で、同郵便到達の日から三日以内に破産宣告の日である同三九年一〇月一日から右同四〇年一一月二〇日までの滞納賃料(原告川田の分は金八〇、四〇〇円、原告小泉の分は金一一三、五六〇円)を支払つて賃貸借契約を継続するか、またはこれを解除するかを催告し、被告がこれに応じないときは原告らにおいて契約を解除する旨の催告及び停止条件付契約解除の意思表示をし、同郵便は同年一一月二二日被告に到達した。しかしながら、被告は上記催告期限内に確答しなかつたので、ここに同四〇年一一月二五日限り、本件(一)、(二)の土地賃貸借契約はいずれも解除により終了した。

五、もつとも、被告の所有にかかる前記別紙第一目録記載(二)及び(六)の建物については、国税滞納処分による公売がなされた結果、昭和四一年九年二七日訴外日新商事株式会社がこれを競落し、同年一〇月四日その旨の各所有権移転登記が経由された。

六、よつて、被告に対し、原告川田は本件(一)の土地の賃貸借契約の終了に基く原状回復として、同地上に在る別紙第一目録記載(一)、(三)乃至(五)の建物及び同第二目録記載(1) 乃至(3) の工作物を収去して、同土地のうち添付図面表示い、ぬ、る、を、わ、か、よ、た、は、に、ほ、へ、いの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた部分約七五七・九五平方メートルの土地明渡を求め、かつ破産宣告の日である昭和三九年一〇月一日から前項の同四一年一〇月四日までは同第一目録記載(一)乃至(五)の建物と上記工作物との敷地である本件(一)の土地について一月金六、七〇〇円の割合による賃料または賃料相当の損害金合計一六〇、八〇〇円並びに同年一〇月五日から上記約七五七・九五平方メートルの土地明渡ずみまで一月金四、五八〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を、原告小泉は本件(二)の土地賃貸借契約の終了に基く原状回復として、同地上に在る別紙第一目録記載(七)、(八)の建物及び同第二目録記載(4) の工作物を収去して同土地のうち添付図面表示へ、れ、そ、つ、ね、と、への各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた部分約四八四・〇八平方メートル及びり、ら、む、う、りの各点を順次結ぶ直線によつて囲まれた部分約六・四八平方メートル、以上合計約四九〇・五六平方メートルの土地明渡を求め、かつ昭和三九年一〇月一日から同四一年一〇月四日までは同第一目録記載(六)乃至(八)の建物と上記工作物の敷地である本件(二)の土地について一月金九、三八〇円の割合による賃料または賃料相当の損害金合計二二五、一二〇円並びに同年一〇月五日から上記約四九〇・五六平方メートルの土地明渡ずみまで一月金二、九六〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を、それぞれ求める。

第二、被告は、「原告らの請求はすべてこれを棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

請求原因第一乃至第三項、第五項の各事実並びに同第四項のうち、原告ら主張の内容証明郵便が、それぞれその主張の日に被告に到達したこと及び被告が原告らに対し右郵便による催告期限内に確答を与えなかつたことは、いずれも認める。しかしながら、本件(一)、(二)の各土地賃貸借契約が、原告ら主張の日に終了したことは否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因第一乃至第三項の各事実及び同第四項のうち原告ら主張の各内容証明郵便がその主張の日に被告に到達したこと、そして被告が原告らに対し右郵便に定めた催告期限内に確答を与えなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、右争いのない事実に基けば、被産法六二条五九条二項民法六二一条の各規定に照し、本件(一)、(二)の各土地賃貸借契約は原告ら主張のように昭和四〇年一一月二五日限り解除されたと見るべきではなく、同日、原告川田において本件(一)の土地につき原告小泉において本件(二)の土地につき、それぞれ被告に対する賃貸借契約解約の申入をしたものと看做すべきである。しかして賃借人破産の場合における賃貸人側からの解約申入に関しては、破産という事実だけを理由とし、他に「正当ノ事由」の具備は必要でないと解すべきであるから、右解約の申入は有効であり、従つて本件(一)、(二)の各土地賃貸借契約はいずれも右申入のときから民法六一七条所定の告知期間一年を経過した同四一年一一月二五日限り終了したものといわねばならない。

三、以上の事実に、当事者間に争いのない請求原因第五項の事実を考え合わせると、被告に対する原告らの請求はすべて理由がある。(もつとも、金員の支払を求める部分については、昭和四一年一一月二五日までが賃料、同月二六日以降が賃料相当損害金ということになる。そして、賃料債権と損害金債権とは訴訟物として別個のものではあるが、原告らは右の二つの債権をそれぞれ予備的に併合して請求しているものと解するのが常識的であるから、上記のように賃貸借契約終了の時期について原告らの主張と異なる時期が認定され、その結果賃料と損害金とを区分する時点が変つても、総計において原告らの主張額を超えていない以上、処分権主義に牴触するものではない。)

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中田四郎)

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